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NARRATIVES
BY INTERMEDIATORS

執筆者の写真インターミディエイター事務局

「暮らしを創る」知を繋ぐ 医療的ケア児者と家族への情報支援プロジェクト

鈴木悠平 文筆家/ 株式会社閒 代表取締役


車いすに乗った子供

「見えない」中でもまず一歩踏み出す

 「子どもたちに向けても何かできないかな」ALS等の難病のある人たちのピアサポートに長年取り組んでいるNPO法人の理事の方から話を持ちかけられた。数年前に「医療的ケア児支援法」が成立し、人工呼吸器や経管栄養といった医療的ケアニーズのある子どもと家族への支援を充実させていこうという機運が盛り上がっているようだが、子どもたちとその親世代を取り巻く状況や課題についてはまだ十分に分かっておらず、上記のNPO法人をはじめ、制度が充実する以前から成人障害当事者・支援者が培ってきた知恵やネットワークとの交流もあまり活発ではない様子だった。個人的な繋がりの中で聞こえてくる断片的なエピソードを参考にしながら、やや手探りながらも調査とアウトリーチの構想を描き、いくつかの助成金に申請したところ採択され、プロジェクトを担当することになった。


 予算が得られたはいいものの、まとまった先行研究も少なく、具体的に何をどう調査し、どのようなアウトプットを出すことが当事者(医療的ケアニーズのある子どもと家族)に資する取り組みとなるかが見えにくいなかで助成事業をスタートすることとなった。そこでまずは、メンバーの知人・友人経由で世代や地域、障害の程度の異なる数世帯にプレインタビューを行い、課題の絞り込みと、調査やアウトリーチの設計から始めることにした。そこで見えてきたのは、さまざまな公的支援制度がつくられているものの、それらを保護者が自分ひとりで理解し活用することの難易度が高いということだ。同じような経験をした先輩保護者たちとの個人的な出会い・繋がりの中で具体的なノウハウが共有されるなど、「公助」を補完するようにして「共助」が働いていることもわかってきた。



調査と場づくりを両輪で


 医療的ケアニーズのある子どもの保護者同士の「共助」を可能にする繋がりは、どのようにして生まれているのか。繋がりを得られた人とそうでない人の違いはどこにあるのか。様々な地域・世代のご家庭へのインタビュー調査を行い、調査から得られた知見をデジタル・メディア(記事や動画)や報告資料(パンフレットや論文)にまとめて届けていくことで、より多くの人たちが自分に合った暮らし方をデザインしていけるようになると考え、NPO法人の事務局をはじめとするプロジェクト・メンバーと一緒に、全体のスケジュールや取り組みなどを相談して決めていった。いよいよ本格的なインタビュー調査のスタートというところで、外部環境の変化による問題が発生した。企画当初は地方出張も含めてオフラインでのインタビューを予定していたが、準備や調査協力者のリクルーティングに予想以上に時間がかかり、その間再び、新型コロナウイルスの感染拡大の波がやってきたのだ。感染リスクを踏まえると、しばらくは対面訪問でのインタビューは控えた方が良いだろうと、事務局メンバーの会議で判断した。


 そこで、改めて全体予算配分と事業の実施方法を見直し、インタビュー調査はZoomで実施、メディアでの情報発信は調査が終わってから着手するのではなく同時並行で展開することにした。毎月一回「医ケアかふぇ」と銘打ち、子どもも保護者も、成人当事者も、支援者も研究者も誰もが参加できるオンラインの対話イベントを開くことにした。コミュニケーションや食事、お出かけ、介助者の採用や在宅自立生活の始め方など、インタビュー調査やその他日々の交流の中で出てきた関心や困りごとを一つひとつ拾い、話題提供してくれるスピーカーを決めて告知・開催する。先を見据えて予定を立てつつも、状況に応じて柔軟にテーマや開催日を変えていくことで、少しずつ場が活性化していった。インタビューもイベントもZoomで開催し、アーカイブを共有したことで、地域や生活リズム、障害の程度が異なる人たちがそれぞれの方法で参加しやすくなったようだ。自然と、当初懸念されていた、成人当事者世代と子ども・保護者世代の出会いと情報共有も進み、子どもから成人への移行期の課題について共に語り合える関係が育まれていった。



世代を越えたコミュニティづくりと知の共有に向けて


 オンラインでのインタビュー調査とイベント開催を経た後、助成事業年度末の3月には、「医ケア・ALS文化祭ー『暮らしを創る』知を繋ぐ」という、一日がかりのイベントを開催した。シンポジウム、子どもと大人の視線入力ゲーム対決エキシビション、写真展示やコミュニケーション機器・電動車いすの使用・相談ブースなど盛りだくさんのプログラムを、東京国際フォーラムでの現地交流とオンライン配信のハイブリッド形式で実施した。出展者としても来場者としても、この1年で出会い、事業に協力してくださった方が数多く参加してくださり、世代や地域を越えた新たな繋がりが生まれると共に、パンデミックによってなかなか対面できなかった人たちが再び集まり、旧交を温めながら未来に向けた活動を話し合う会となった。インタビュー調査をもとにした成果物である、保護者向けのハンドブックもこの日に完成お披露目をすることができた。医療的ケアを必要とする子どもと保護者が、ライフステージに応じた支援や繋がりを得ながら自分らしい暮らしを創っていくための知恵やノウハウを一冊にまとめたものだ。イベント参加者やインタビュー協力者の方々の協力もあって、各地の病院や療育センターなどへの配布・設置も進んでいる。このプロジェクトでは、障害・疾患種別ごとの患者会や当事者会、あるいは、子ども・保護者向けの支援と成人当事者向けの支援といったように、切れ切れになりがちなコミュニティや情報を結んでいくことを常に意識してきた。この1年を通して出会い、協働してきた仲間たちと共に、関係の網の目を結び拡げるための活動を続けていきたい。


◆成果物のひとつ:


 

発揮したインターミディエイターのマインドセット:

□3分法思考/多元的思考

□エンパシー能力

☑多様性・複雑性の許容

☑エンゲイジメント能力

☑エンパワリング能力

□対話能力

☑物語り能力

 

Certified Intermediator


鈴木悠平 (すずきゆうへい)

文筆家

株式会社閒 代表取締役

鈴木悠平さん

東日本大震災後の地域コミュニティの回復と仕事づくり、学ぶことや働くことに障害のある人や家族を支援する企業での現場支援や研究開発、メディア運営等を経験したのち独立、2020年に株式会社閒を設立。医療的ケアニーズや重度障害のある人たち、罪を犯して刑務所に入った人や出所した人たち、精神疾患や依存症のある人たちなどのリカバリーや自立生活に向けた支援に携わりながら、「生活を創造する」知と実践の創出・展開に取り組む。


株式会社閒 https://awai.jp.net




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