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NARRATIVES
BY INTERMEDIATORS

執筆者の写真インターミディエイター事務局

地域の可能性を引き出し、共創する人々が育つ環境をつくる ── 平田直大さんインタビュー[後編]

更新日:7月28日


平田直大さん(しまのわ代表、プロモーションうるま事業部長、インターミディエイター)


ビジネスを含め、およそ人間の共同社会は「関係の網の目」の中で成立しています。とりわけ、人間・機械・自然の協働は、人類共通の重要課題です。

 

だからこそ、その「あいだ」に立って、破壊され、毀損され、失われたリンクの数かずを修復、再生、再創造するモノやヒトが必要です。「あいだの知」を担う媒介役を 「インターミディエイター( intermediator )」といいます。誰かの上か前に立とうとする “ 強いリーダー ” ばかりを探し求める人にとっては、じつに見えにくいタイプの存在です。

 

本連載では、この「インターミディエイター」の考え方に通じるプロジェクトや展望をお持ちの方々をお招きし、お話をうかがっていきます。

 

第3回は、「インターミディエイター」(有資格者)として活躍する、平田直大さんをお招きしました。「前編」「中編」に続いて、今回は最終回「後編」です。



 

[プロフィール]

平田 直大さん


一般社団法人しまのわ 代表

一般社団法人プロモーションうるま 理事 / 地域づくり事業部 事業部長

インターミディエイター

 

1984年神奈川県生まれ。大学卒業後都内の情報会社勤務を経て、大学時代の研究テーマであった「中山間地域の維持可能性」に関わりたいと2014年に沖縄に移住。地域活性・プロジェクトデザインを行う会社の役員を3年間務めた後、2017年に沖縄で独立、2023年より一般社団法人プロモーションうるまに参画し現在に至る。県と市町村、市町村と地域住民といった、県内の各主体者の「あいだを繋ぐ」事業領域で奮闘中。

 

 

── 地域の話から、「インターミディエイター・プログラム」「世界構想プログラム」の話に移ります。平田さんは、もうずいぶん長いこと、色々なプログラムに参加してくださっています。最近は、「インターミディエイター・プログラム」で、有資格者認定の際に評価委員もなさっていただき、ご活躍いただいて、欠かせない存在です。平田さんがこのプログラムの中で、好きだな、魅力的だなと感じることはありますか。

 

平田: インターミディエイターの認定制度は、毎年更新するしくみになっていますが、更新の時に、自己評価をして、振り返りの時間を持つことを、私は毎年大事にしています。


 

── 有資格者の方々が年に1回、去年1年の振り返りをまとめたり、未来志向の物語を書いたりします。またそれら書類をもとに、評価委員の皆さんとの個別対話で、次の展開を対話するプロセスですよね。

 

平田: はい、このプロセスが大事だと思っていて、実は今年、自分の会社の中でもやっていきたいと考えているんです。今、社内の皆さんに過去のことと次のことを書いてみるよう依頼しています。

 


── それはすごくいいですね。人材育成を「インターミディエイター・プログラム」/「世界構想プログラム」に委ねてくださっている企業様もありますからね。どのようなところがよいですか?

 

平田: 会社で導入するといっても、会社としての人事評価、例えば、上司にどう見られたいとか、給料をどれだけ上げてほしいということでは全然ないんです。むしろ、純粋に自分がどうだったのかを、自分にきちんと問う時間が、とても大事で。自分としてのあり方をしっかり振り返ることをするのは、「よりよく生きる」という意味で、重要なことではないかなと。

 

加えて、このプロセスを「対話」の中で行っていくこと。自分だけに留めるのではなく、他の方とも対話して、自分の評価を見て聞いてもらって、それに対してお話をいただいて、自分がそれについてどう感じたのかを、再び考える。


このプロセスの尊さというか、ありがたさを毎年感じていて、本当に他ではこんなことはできないんですよね。例えば友達にこんなことをしようとしたら、急に変な奴に思われるかもしれないですが、やはりこの「インターミディエイター・プログラム」の場だからこそできることがあります。

 

今は、評価委員をさせていただいていることもあって、より様々な方々と、この 1 年のハイライトとローライト、今後に向けてどうしていくのかの話をします。それ自体が面白いのと、そこから自分が刺激を受けていくこともまた面白くて。自分の中のありようを、年に 1 回、本当にしっかりと改めて見つめさせてくれるいい機会として、活用させていただいています。

 

── では、この学びの中で、平田さんが好きな概念は?

 

平田: 私自身、いろいろ影響を受けてはいるんですが、いつも常に気をつけているのは「戦争のメタファーは使わない」ということですね。この話は設樂先生が言われていることで、めちゃくちゃ気を使っています。好きということとは違うのですが。

 


── 少しご説明いただいてもいいですか。

 

平田: 例えば、ついつい言いたくなるのですが、「戦略的」とか「ターゲット」という言葉は、絶対使わないようにしています。ターゲットとは、射る相手という意味なので、これも戦争で使われる用語です。特に鍵カッコつきのマーケティングのなかで、使われやすい言葉なのですが、戦争を連想させる言葉は使ってはいけないということを設樂先生から学びました。誰かが使っていると気になってしまうんですけど(笑)

 


── 地域の現場でも、戦争用語を使うと、成果・効果がうまれない印象を持たれますか?


平田: 思います。なんて言ったらいいですかね、特に、人に対して戦争用語を使うこと自体に不遜な感じが出るので。


戦争は相手を倒す、勝ち負けの話です。でも、我々がやりたいことは、勝ち負けではないですよね。ですから、ウィン・ウィンでもなくて、数でもない。新しい未来をともにつくる話なのに、なぜそれに勝ち負けが必要なのか、ということですよね。


そもそも近視眼的であったり、二項対立に陥りやすいということも含めて、勝ち・負けや 「2分法思考」で価値判断をすると、新しく未来をつくりづらいなと思うので。超短期に何かしらの数字を出すようなことであれば、ひょっとしていいのかもしれないですが、それをしたいわけではないですし。地域の現場としても戦争用語がないほうがいいですね。


── では、“中長期的な島の自律”は、戦争用語とは相反するものがありますか?

 

平田: はい、全くあっていないと思いますね。最近、人口減少に関する対策論の話でも、人口の奪い合いはいけないよね、競争ではないよねという話がよくあります。また、これも最近ですが、ふるさと納税が地域間競争を煽っていると話題になっていましたよね。ふるさと納税によって長期的に産業育成をしているのかといえば、私はそこには懐疑的なのですが。


そういう観点からしても、戦争メタファーを使わないようにすることは気をつけています。他にも、設樂先生からいろいろな概念や言葉をいただくので、何かひとつとは言えないのですが。例えば、「人を巻き込む」という言葉は使わない、とかですね。

 


── 「巻き込む」というのは、巻き込まれた先に悪いことが待っていることを指すが、皆さんがやっていることは、より良くする活動なので、巻き込むという表現ではない、ということですよね。島の自律に伴走していくなかで、きっと言葉ひとつで方向が変わってしまうこともあるのかなと想像しました。平田さんが、言葉にも気を使いながら地域と関わられているのは、素晴らしいことですね。そんな平田さんから、これからインターミディエイターの学びをやってみようという方に向けて、何かメッセージがあれば、お願いできればと思います。

 

平田: インターミディエイターのことを聞いて、これは自分がやっていることじゃないかと勇気づけられることがあると思います。それ自体は最初の入り口として、すごく素晴らしいことで、よいと思います。ただ、それだけに終わらせず、続けること、意図的にやることの難しさが、その次にやってくると思っています。そういう時にも、きちんと概念や学びを大事にしていくことを、続けてほしいなと。


この学びは、ただ単にいいことを聞いた、だけではないのですよね。例えば、何か別の講演でいいことを聞きました、というものと同じ対応にしてしまうと、すごくもったいないことです。単なるマーケティング用語やノウハウのようなものではなく、フィロソフィーであり、あり方としての考え方だということを理解して意識しておくと、自分の中でのインターミディエイターの学びや有用性が変わってくるんじゃないかな。より楽しくなっていくかなと、思います。

 


── ありがとうございます。 それでは、今後、平田さんが、ご自身として未来に向けて、挑戦していきたいと思っていることは?


平田: 自分が今までやれていないと思っていることがあるんです。それが、若手を育てていくというか、人づくりということ。実は全然できていないんですよね。


今まで仕事をしてきている中で関わった多くの方々が、だいたい年上や同年代ぐらいの方々で。そういった方々をエンパワリングすることばかりをやってきました。私もまあまあいい年になってきて、未来は自分だけではなく、次の世代の人たちがつくっていくというところに、取り組んでいかなければいけないというか。次に、確実に一つ要素としてやるべきことかなと思っています。


今、自分の周りで、チームづくりをはじめています。チームとしてどのように前に進めるのか。ある程度、地域活動の場面場面で、自分自身の特性を出せはするものの、それをどうしたら継続していけるのか。そのための人づくりというところに挑戦・コミットしていこうかな、と。

実は、もともと自分自身が嫌いだったんですよね、そういうことを。

 


── 聞かせてください!前に伺ったことがあるのは、教室で教え込まれることが大嫌いだった、と。

 

平田:あ、大嫌いですね(笑)。それとも通じると思います。私の場合、人は勝手に育つと思っているふしがあったんです(笑)



── なるほど。ちなみに、設樂先生はいつも、勝手に(自発的に)人が育つ環境をつくることだとおっしゃいますね。

 

平田: ですよね、ようやくそこに気づいてきたといいますか(笑)。もともと自分がそういう環境に運よくいられたから、勝手に育つことができたと思っています。そういう環境を自分で選ぼうとしていたところもあるのかもしれないですが。


私の場合、ある種、他者に対する遠慮のようなところもあって、こんなことを言われても相手は嫌だろうなと思ったり。自分自身があまのじゃくで言われることが嫌だったり、恩師と呼べる人は自分には特にいないし、と思っていたり。そういう感じで来た人間だったので、他の人たちもそうだろうと思っていました。


ですが、よく考えてみたら、自分も局面局面でいろいろな方々に教わってきたんだと今は思いますし、育つことができる環境にいさせてもらえたことも大事だったと思うし。

 


── 今度は、そういう、人が育つ環境をつくる側としてやってみられる、ということですね。

 

平田: 自分が育てていく、という話ではなくて、同じ分野や同じような領域をやっていく中から、成長している人が出てくることが望ましいだけなのだと考えています。

 


── ニュアンスは、とてもわかります。そもそも知識のあるものがないものに対して、上から下に“教える”という行為は、インターミディエイターの考え方ではご法度。むしろ、学び合える環境をつくること、ですよね。ですから、平田さんが教え込んだからできるようになるってことではなく、きっと、地域のみんなでワイワイしながら自然に学び合っていたり、というようなイメージですか?

 

平田: そうですね、そのためのきっかけづくりとか、チームづくりは大事だろうと思うので、これからやれたらなあと考えています。

 


── とても楽しみですね! では、最後のご質問になりますが、これからどんな社会になっていけばいいな、していきたいなということで、考えていらっしゃることがもしあれば、いかがでしょうか?

 

平田: そうですね…。みんながいったん立ち止まれる社会といいますか。直情的な社会ではなく。今、世界的にも、対立が様々な地域で深まる時代だなあと思うんです。それは無理解だったり、感情の暴発であったり。そういったことを意図して使おうとしている方々の、思惑どおりに動いてしまっているところがある気がするんです。


もちろん怒りとか正義感というのは、何かを起こす原動力にもなるのですが、それよりも、怒りや正義は何かを壊すきかっけにもなりえることを、みんなが理解しながら、少し立ち止まれるような、冷静さを持つ社会になっていくのがいいなあと、個人的には思っています。この世界全体が、冷静さを欠いているのではないかと思います。

 

── そこに、インターミディエイターが寄与できるでしょうか?

 

平田: だと思いますね。直情的なことは、すぐに対立に、敵か味方かという2分法思考につながります。そこで、いや、そうではないよねということを、「3分法思考」できちんと提示できることは大事ですね。

 

── 今回はお話をたくさん聞かせていただきありがとうございました。また折に触れ、経過を聞かせてください。


(2024/5/17, ダイアログと文:松原朋子)


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