top of page
marble-white.jpeg

NARRATIVES
BY INTERMEDIATORS

執筆者の写真インターミディエイター事務局

対話から生まれた「伊是名島の観光コーディネイター」

更新日:7月28日

平田直大 一般社団法人しまのわ代表



「観光資源が無い」島で、何ができる?


 「離島だったら平田さんですよね?」と言われ、行ったこともない伊是名島の仕事のメイン担当になった。だが、島に初めて降り立った時には、「しまったな」とすら思った。それほどに、状況は良くなかったのだ。


 もともと島自体が全く観光開発を行っていなかった。そのため案内するコンテンツはほぼ無いに等しい。その状況下でツアーガイド育成だけを行ったとしても、島に点在する遺跡や島の絶景ポイント等の「点の案内」に終始する可能性が高い。また、事務局が作ったツアー内容をそのままガイドしてもらったとしても、島の人たちにとっては面白みがないだろう。それでは結局続かない。


 そこで私は視点を変え、「観光ガイド育成」ではなく、島民が自発的に内容をブラッシュアップし、事業を生み出せるようにするための「観光コーディネータ育成」にしようと村に提案した。過去にそのような事業を実施したことはない。遂行できる自信はなかったが、方向性はきっと合っている。そう信じ、まずは始めることが肝心だと自分に言い聞かせてスタートした。


 2014年夏、沖縄に移住した直後の話だ。伊是名村の自治体職員から、「島の観光振興を取り組んでいきたいが、島に人材がいない。当初在籍していたルーツにツアープログラム開発とガイド育成を頼めないか」と相談があったのがきっかけだった。担当職員は前年に別の観光系事業でルーツと協働した経験があり、ルーツがプログラム開発やデザインも行っていることから、何かしら実行できるのでは?と考えたのだった。


島に眠る本物を、島人がどう伝えるか?


 威勢のいいことは言いつつも、自分の経験値だけでは理想の実現にはほど遠い。観光プログラム作成の実践者との協働が必要だ。そう感じ、「ガンガラーの谷」を開発・運営し成功させている、(株)南都の高橋巧さんに相談した。とくに高橋さんの「その場にあるものの、本物の魅力をどう見せるか」という手腕、「守るために、価値を伝える」というポリシーが島に合致すると考えたからだった。



 高橋さんも私が考えたことに賛同し、一緒に島を回った時には、「この島には本物の沖縄が眠っているので、これをきちんと磨くだけで十分ですよ」と言ってくださった。


 そこでプロジェクトはまず、島の人たちと共にフィールドを楽しむところから始めた。良いと思われるポイントを参加者全員で回り、それをどうプログラムに落とし込んでいくかという順で進めていった。このプログラム作りの過程を共に行うことが、島の人に「自分たちでもプログラム作成は出来る」「自分たちが楽しむことがまずは大事」という意識の醸成につながっていた。


 しかし、順調に思えていた私たちのプロジェクトに、2つの大きな壁が立ち塞がった。一つ目は、ツアー内容がどこまで島の実情に合ったものになっているか、ということ。二つ目は、参加者のモチベーションが続いていかないことである。 

  

 前者に対しては、島の人にとっても、外部から来るゲストにとっても、双方の心に残るプログラムにするために、「物語り」を取り入れた。とくに、島が大事にしている琉球王朝第二尚氏開祖の「尚円王」の物語を、どう島の自然・文化と合致させるのかという点を注意した。尚円王の物語は島の人にとっては耳馴染みがよい物語だが、伊是名島全体の観光案内と結びつけるという視点はあまりなかったので、私がシナリオを作成し、島の人たちがそれを推敲するというスタイルで進めた。



 後者に関しては、このプログラムを今後運営し続ける島の人が「この後もやり続けたい」と感じてもらえなければならないため、モニターツアーと称して島内外さまざまな立場の人に参加してもらい、まずは徹底的に良い点を挙げていってもらった。これは効果が大きかった。「自分たちがやっていることがこんなに喜ばれるなんて!」という実感を持ってもらうことができた。



アントレプレナーの誕生


 現在、このプロジェクトを一緒に実施していたご夫婦は、ご自身で観光案内の会社を立ち上げ、村・観光協会からも紹介を受けながら、島内観光案内事業を手掛けている。また、そこから事業を発展させ、自身が購入した船舶で渡し舟や釣り船事業も行っている。「あの観光コーディネータ事業がなければここまでやれなかった。平田さんたちがいたから私たちの今がある」と嬉しい言葉をいただいている。


 まだ島全体が観光に対して前向きになったとまでは言えないのも事実だ。だが、将来的には、このご夫婦のがんばりが、きっと島内に良い影響をもたらし続け、伊是名という島の名前と評判はしっかりと県内・県外にまで届いていくことだろう。






活動分野:地域での観光振興・人材育成 

発揮したインターミディエイターのマインドセット:

□3分法思考/多元的思考

□エンパシー能力

□多様性・複雑性の許容

☑エンパワリング能力

☑対話能力

☑物語り能力

☑エンゲイジメント能力



 

Certified Intermediator


平田 直大

一般社団法人しまのわ 代表

一般社団法人プロモーションうるま 地域づくり事業部 事業部長


1984年神奈川県生まれ。大学卒業後都内の情報会社勤務を経て、大学時代の研究テーマであった「中山間地域の維持可能性」に関わりたいと2014年に沖縄に移住。地域活性・プロジェクトデザインを行う会社の役員を3年間務めた後、2017年に沖縄で独立、2023年より一般社団法人プロモーションうるまに参画し現在に至る。県と市町村、市町村と地域住民といった、県内の各主体者の「あいだを繋ぐ」事業領域で奮闘中。




Comentarios


bottom of page