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NARRATIVES
BY INTERMEDIATORS

執筆者の写真インターミディエイター事務局

誰もが誰かの「かけがえのない存在」となるコミュニティ Polyphony #7 イベント・レポート

更新日:2月7日


カンファレンスルームで、ノートが置かれた椅子が奥まで並ぶ様子

いつもの通り道に花が咲いている、いつもの職場にちょっとした差し入れがあった――。

一見同じことの繰り返しに見える日常にも、小さな変化はたしかに生まれています。ささやかな変化をきっかけに、すれ違うばかりの人とゆっくり話ができたり、誰かの意外な表情を垣間見たりと、私たちはまだ見ぬ新しい可能性への扉を開くことができます。たとえひとつの松ぼっくりであっても、それを起点に会話が生まれ、そこからかけがえのないコミュニティに育っていくことがあるのです。


「あいだ」の知の担い手として、さまざまな領域で実践を続ける「インターミディエイター」たち。彼らとともにこれからの協働社会を描くダイアログ第7回は、さまざまな立場の地域の人々が協働して運営する「コミュニティ・ガーデン」を全国に広げる木村智子さんと、地域の人々と福祉施設の利用者や職員たちとの関係を結びつづけている、いぶき福祉会の北川雄史さんをスピーカーに招き、人間が人間らしく過ごしていけるコミュニティづくりの秘訣について対話をしてみました。文筆家であり株式会社閒の鈴木悠平さんのナビゲーションで、まずはそれぞれの自己紹介からスタートしました。


2022年12月5日に、インターミディエイター3人によるダイアログ・イベントPolyponyを開催。鈴木悠平さん、木村智子さん、北川雄史さん。

table of contents


みんなでつくり、みんなで楽しむ「コミュニティ・ガーデン」


木村智子さん:

ランドスケープ・アーキテクト&コミュニティ・ガーデン・コーディネーターとして活動しています。どんな仕事をしているのか、ご紹介しますね。

コミュニティ・ガーデン・デザイナー スマイルプラス木村智子さん

私は実家が花屋だったこともあり、園芸に親しんで育ちました。大学卒業後は公園設計の会社に就職して、その後は子育てしながら、個人で庭の設計施工やガーデニングの講師をしていました。


転機は2002年、夫の転勤でシンガポールに移住したことです。そこで熱帯雨林に興味がわきガイドとして活動を始めると、生物多様性がこれからの地球にとってとても大切だということと、熱帯雨林が減少しているという深刻な状況を知ることになります。そしてだんだんと、子どもや孫の世代が、安心して生きていける環境を残したいと思うようになりました。

そして2007年に帰国すると、自然の大切さに気づいてもらうための活動を始めます。まずは足元の小さな花に気づく人を増やしたいと考えました。公園を利用してみどりと関わる人々をサポートしたり、さまざまな人が参加する「コミュニティ・ガーデン」をサポートしたり、市民協働の公園を実現するための「プレパーク事業」というものを行政との連携で推進したりしています。

このとき、ボランティアと公園管理者のあいだに立ったり、花やみどりの活動を始めたい人に対して夢の実現をサポートしたりするなど、人々や情報をつないだり、対話の場をつくったりしています。このときインターミディエイターの【5つのマインドセット】をつねに意識しながら動いているので、私は自分のことを「みどりのインターミディエイター」かなと思っています。

活動をするうえで大事にしているのは、プロセスづくり。コミュニティ・ガーデンって、地域のみんなの庭なんですよね。だから、誰かが「場所があるから、ガーデンやってね」と投げ出すのではなくて、みんなでどうしたいか考えて、つくることも楽しんで、それを見ている人も楽しめるように意識しています。


今日登壇している北川さんといっしょにガーデンをつくったこともあります。つくってみると、手押し車で散歩をされていた方が「これで外に出る楽しみが出来た」とおっしゃったそうです。これからもガーデンをつくる人とそれを見る人の垣根をなくしていく「コミュニティ・ガーデン」を色々な人たちと一緒につくれたらいいなと思っています。


誰もが安心して暮らせる寛容な社会のために


北川雄史さん:

岐阜県のいぶき福祉会で事業所を運営しています。150名の障害のある利用者さんと、80名の職員とともに、日中に仕事をする施設やグループホームという生活の場で働いています。

福祉の仕事を始めたのは25年前、28歳のときです。それ以前は、じつは私は裁判所で働きたかったんです。「家庭裁判所調査官」に憧れていました。いま考えれば、インターミディエイターの5つのマインドセットにある【エンパワリング】に関心があったのだと思います。生きづらさを感じる人や困っている人が立ち直るプロセスに関わりたいと思っていたんですね。そこで、京都うまれの僕が、岐阜で障害者福祉の仕事に出会うことになります。

いぶき福祉会専務理事の北川雄史さん

「障害のある人」とひとくちに言っても多様です。目が見えない、耳が聞こえない、身体が動かない、知的障害があるなどさまざまですし、なかには呼吸器などでの医療的ケアがないと生命を維持するのがむずかしい方もおられます。僕の活動では、そういう人たちが社会のなかで役割をもって働き、その人たちとの出会いを通じて、地域のなかで【関係の網の目】をどんどん広げていくことを意識してきました。

ですから、いぶき福祉会の活動はさまざまです。障害のあるみなさんの暮らす場所をつくるだけでなく、お店をやったり、草木染めをしたり、茶畑でお茶を育てたりなど多様なアプローチをしています。私は「インターミディエイター」という概念を知って、自分たちの活動が人と人とを繋いでいく活動なのだと言語化できました。私は、障害のあるなしに関わらず、誰もが安心して暮らせる寛容な社会をつくりたいんです。そのために、さまざまな立場の人のあいだに立って、それぞれの人が社会のなかでかけがえのない存在だということを確認しあいながら、これからの新しい価値観をつくっていきたいと思っています。



「働きたいけれど、働けない」という痛みから


鈴木悠平さん:


株式会社閒(あわい)代表取締役 鈴木悠平さん

私は、株式会社閒(あわい)という会社で活動しています。私が取り組んでいるのは、たとえば障害があるとか、刑務所から出たばかりなど、さまざまな事情で働くことがままならない人たちのサポートをすることです。

それぞれがそのような痛みを抱えていても、たとえば遠隔操作ロボットなどのテクノロジーを利用したり、そのような思いに共鳴する人とご縁をつないだりすることで、それぞれが自分らしい働き方ができるようになるかもしれない。ひとつの会社に雇用されてひとつの場所で働くという「定型的な働き方」だけでなくて、それぞれにあった「非定形な働き方」を追求できるような事業をおこなったり、それを広めるためのメディア運営に携わったりしています。

それぞれの自己紹介が終わると、3人のインターミディエイターによるダイアログが始まりました。


敵対するのではなく、対話を続ける


鈴木さん:

木村さんも北川さんも、さまざまなプロジェクトを経験しておられますよね。多くの人が関わるほど、全員がすぐ賛同するなんていうことはなく、取り組みに対して懐疑的・批判的な立場を取る人も出てきたと思います。そういうときはどんな工夫をされたのでしょうか。

木村さん:懐疑的な方がおられた場合には、インターミディエイターの5つのマインドセットのなかでも【エンパシー】を大事にしますね。2人や3人など少人数でじっくり話す場を設けて、じっくり話を聞きます。共感するというよりも、相手の考えていることをまず受け入れることに徹するんです。声をあげてくださる場合、何か強い思いをお持ちの方が多いので。そうやってお話をよく聞いて、どの部分なら一緒にできそうかとお互いに探っていくと、最初は攻撃的だったな方ほど協力的なパートナーに変わるというケースはよくありました。

北川さん:

岐阜で福祉の仕事に関わるようになって25年、いくつも大きな施設をつくってきました。そのなかで反対運動が起きたことが4回ありました。


いぶき福祉会専務理事の北川雄史さん

反対する方々というのは、地域のなかでもごく一部です。ですが、やはり障害者施設がどういうものなのか、わからないから偏見をもってしまうことも多いんですね。無知や未知から不安が生まれていると思うんです。だから、とにかくていねいに話をすることを心がけました。

たとえば、利用者さんといっしょに地域にあるお茶畑のお手伝いを始めたことがありました。そのお茶畑は荒れ果ていて、「いぶき福祉会さんでなにかできないか」と声をかけていただいたんですね。これなら地域のお役にも立てるなと思ったけれど、ところがどっこい、そうではありませんでした。

地域のなかには「わけのわからない人たちが自分たちの茶畑に乗り込んできた」と不信をもつ人も出てきてしまったんです。村を2分するような騒ぎになりましたが、それでもていねいに対話を続けていき、だんだんと荒れ果てていた茶畑がきれいになるのを見ていただくと、「あんたらが来てくれたおかげだな」って感謝してもらえるようになりました。



得意を持ち寄り、役割を分担すれば


鈴木さん:

株式会社閒の代表取締役、鈴木悠平さん

なるほど、やはりその都度、ていねいに対話をするというのが大事なのだと思い知らされます。と同時に、対話だけでなくて、実際に公園や茶畑がきれいになったという事実が大きな説得力をもつんですね。


コミュニティ・ガーデンも、いぶき福祉会の活動も、さまざまな人が多様な関わり方をしていると思いますが、そういうときの「多様な役割」はどうやって生まれていくんでしょうか。

木村さん:

私の場合は、得意なことをどんどん任せていっちゃいますね。お任せしていくときも、やっぱり「対話」が鍵になると思います。声を上げない方であっても、想いがないわけではありません。ちらっと目線を感じたら話しかけてみるなど、すこしずつ対話をして、気になっていることはないか、何が得意なのかお聞きして、どんどんお願いしちゃう。役割が出来ていくと、参加意欲もどんどん増しますから。

北川さん:

事業所のなかでも、それは同じだなと思います。それぞれができる作業って、異なるんですよね。役割分担をして、人が人を助け合うことをしているのが自然なありかたかなと思います。



“効率” よりも大事なことは


北川さん:

福祉の現場で浸透している価値観と、その外で一般的とされている価値観にギャップがあるんですよね。私は現場では、「この人に出来ることはなんだろう」「みんなで助け合おう」という価値観で生きています。ですが、職場から一歩出た途端に、「すこしでも安いものを買え」とか「いかに効率的にお金をもうけるか」という価値観にさらされてしまいます。

効率を求める社会には「作業は速く、たくさん、上手にできたほうがいい」「出来る人が必要で、役に立たない人はいらない」という物差しがありますよね。社会ではあたりまえの価値観ですが、僕たちが大事にしたい思いとは矛盾します。

こういう葛藤が起きたときは「経済合理性に基づくこの物差しを、利用者さんにあてはめていいのか」「職員である自分が『役に立つ・立たない』という基準で評価されたらどう思うだろうか」と立ち止まって考えることが必要だと思います。「どういう価値観のほうが、人間らしくて心地良いだろう」って考えると、おのずと見えてくるものがあると思います。


木村さん:

コミュニティ・ガーデン・デザイナー、スマイルプラスの木村智子さん

いまの北川さんのお話を聞いていて、北川さんの施設で目指すことと、私が公園で目指すことは似ているかもしれないと気づきました。

いま、みんな居場所を求めています。子どもたちも、大学生も、子どもをもつお母さんも、高齢者も、すべての方々がそうです。そして公園というのは、そこで過ごす人に効率を求めない場所なんです。「できる・できない」とか、効率の良し悪しを優先する世の中において、“ただいること”を許されているのが公園なんですよね。



言葉を介さない「対話」のために

鈴木さん:

たしかに、公園って目的が求められない場ですよね。とはいえ、たとえばコミュニティ・ガーデンなどに関わる場合は「その場にいるだけでいいよ」って言われても、私は何をしたらいいんだろうと落ち着かなくなってしまう人もいると思うのですが。

木村さん:

庭仕事はいくらでもあるんです。たとえば草取り。これは意外とみなさんハマるんです。園芸作業のいいところは、作業中に無言でいても大丈夫だということ。「お茶を飲みましょう」と集まった場合に黙ったままでいるのは難しいですが、園芸作業ならしゃべってもいいし、しゃべらなくてもいい。黙々と作業しているだけで、安心してその場にいられます。そして、終われば「来てくれてありがとう」ってたいていの場合感謝されるから、自分にも役割があったんだなって感じやすいですし。

いぶき福祉会では、コミュニティ・ガーデンをながめながらのお茶タイムで、ソーシャル・キャピタルを育む。

鈴木さん:

「対話」っていっても、「さあ、対話しましょう」と気負うものばかりではないですものね。言葉を使わずとも、お互いの存在を感じるのも、対話的コミュニケーションともいえますよね。

北川さん:

私たちの施設には、なかなかしゃべらない人も、呼吸器をつけていてしゃべれない人もいらっしゃいます。一方で、そういう彼らの気持ちをうまく汲み取る人もいます。

僕たちは、わかりあうために長く一緒に時間を過ごすことができます。たとえば、ふだんは話ができない人も散歩中にはすこし声が出るとか、美味しいものを食べたら目があうとか、そういう小さな変化があります。そこに気づけるようにしていきたいとつねづね思います。

みんな、伝えたいと思っているんですよ。みんな、誰かと一緒につながれば嬉しいと感じる。


そういう心がみんなにあると信じることで、みんな幸せになれるんじゃないかなと思います。


ダイアログを終えて


コミュニティ・ガーデンも福祉施設も、つくってからが始まりです。対談のあとは、木村さんの協力で、いぶき福祉会がつくった「コミュニティ・ガーデン」がいまどんなふうに活用されているのか、後日談で盛り上がりました。


北川さんは「とても小さいガーデンだけれど、そこから生まれたなにかがある」とおっしゃいます。そこでは、ささやかなマルシェを開き、カブトムシを配ったり、焼き芋やビザを焼いたり、はたまた、自由に持ち帰れる松ぼっくりをテーブルに並べたり。花が咲けば、福祉会の職員さんがそれを摘んで、花束にして道端にずらっと並べ「ご自由にお取りください」とおすそ分けをするし、下校途中の男子高校生が庭の近くで話し込んでいたこともあったとか。


たったひとつの松ぼっくりであっても、地域の人たちと福祉施設の利用者さんや職員さんとを繋げ、新たな関係を生み出すインターミディエイターになります。今回の対話は、一人ひとりに居場所を生み出す豊かなコミュニティをつくるためのヒントがたくさん語られる時間となりました。



執筆:梅澤奈央

企画・編集:鈴木悠平、松原朋子

 

スピーカー・プロフィール


★木村 智子さん

有限会社スマイルプラス 取締役

ランドスケープアーキテクト&コミュニティガーデンコーディネーター。まちや公園、各種施設等でコミュニティづくりのための道筋を描き、人・まち・自然を紡いで「関わる人が自ら楽しみながらコミュニティを育む場」の実現をサポート。造園コンサルティング会社で公園緑地やURの外構計画設計に携わり独立。2002年よりシンガポール在。Singapore specialist tourist guide(自然分野)を取得。熱帯雨林や生物多様性等のガイドを務める。帰国後、2010年(有)フラワーセンター若草代表取締役 就任。2013年には浜松市にコミュニティカフェ「C-cafe」をオープン、2017年にはコミュニティデザインオフィス「スマイルプラス」設立。2021 年、有限会社スマイルプラスに社名変更、取締役に就任。https://www.intermediator.jp/tomoko-kimura


★北川 雄史さん 

社会福祉法人いぶき福祉会 専務理事

1969年京都市生まれ、神戸育ち。筑波大学第二学群人間学類卒。大日本印刷株式会社から、社会福祉士取得後、1997年に社会福祉法人いぶき福祉会に入職。障害福祉に携わるようになる。従来の福祉の枠にとどまらず、福祉のつよみをいかしたブランド開発により、モノやコンテクストを創りだしている。地域でモノづくりを担う方々とのネットワーク活動などにも積極的に取り組む一方、最重度の障害のある人の社会参加、いのちの問題などを医療・教育と連携しながら向き合いつづけている。著書に『ねことmaruとコトコト~障害のある人の「働く」をつくる』きょうされんKSブックレット(共著)。


★鈴木悠平さん 

文筆家 株式会社閒 代表取締役 東日本大震災後の地域コミュニティの回復と仕事づくり、学ぶことや働くことに障害のある人や家族を支援する企業での現場支援や研究開発、メディア運営等を経験したのち独立、2020年に株式会社閒を設立。医療的ケアニーズや重度障害のある人たち、罪を犯して刑務所に入った人や出所した人たち、精神疾患や依存症のある人たちなどのリカバリーや自立生活に向けた支援に携わりながら、「生活を創造する」知と実践の創出・展開に取り組む。 https://www.intermediator.jp/yuhei-suzuki





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